珈琲の母・楡井の人生録

なぜコーヒーを作り続けるのか?

小さい頃から、私は「やりたい」と思ったことに一直線に進むタイプだった。

興味を持ったらすぐに動く。人にどう思われるかよりも、「自分が面白いと思うか」が基準で、自分の感覚と好奇心に素直に生きてきた。

でも、大人になるにつれて、たくさんの痛みを経験することになった。
思いどおりにいかない現実。人との衝突。自分を見失う瞬間。うつ病になって、何もできなくなった時期もあった。あの頃は、「生きるってなんだろう」「自分には価値があるんだろうか」と、本気で思っていた。


そんな私を少しずつ救ってくれたのが、一杯のコーヒーだった。

手を動かして豆を焼き、香りを感じ、誰かに淹れて「おいしい」と言ってもらう。昔は「自分が好きなこと」「自分が面白いと思うこと」がやりたいことだった。



その一つひとつの行為が、「生きている実感」を少しずつ取り戻させてくれた。
そこから、私の「やりたいこと」は変わっていく。

でも痛みを経験してからは、「相手にできること」「相手が喜ぶこと」がやりたいことに変化していった。

利己から利他へ。でも今ではその境界線すらない。

誰かの笑顔を見たいと思って動くことが、気づけば私自身の喜びになっている。
相手のためにやっているようで、結局自分が救われている。この感覚を、コーヒーが教えてくれた。
コーヒーは私にとって、魔法のような存在だ。

一杯で人の表情が変わる。言葉がなくても心が通う。
その瞬間に立ち会うたび、「ああ、やっぱり私はこの仕事が好きだ」と心から思う。
気づけば、ただ「コーヒーが好き」ではなく、「コーヒーに熱狂している自分」になっていった。
相手に価値を届けられているという実感。その結果、私自身が自分の価値を信じられるようになった。

コーヒーを作る以前は?

幼い頃から、人と同じことをするのが苦手で、どこか話が合わないと感じていました。
人の真似ではなく、自分の考えで生きていきたい。そんな想いをずっと抱えていました。
高校卒業後、まず衣類の会社に就職し、その後、不動産会社でも働きました。

社会に出て働く中でも、「人と同じではいたくない」という気持ちは変わらず、自分の進む道を模索し続けていました。

21歳のとき、家族の大反対を押し切り、北海道の過疎地へ嫁ぐ形で結婚しました。

人生で初めて、ここまで人を好きになれるのかと思うほどの大恋愛でした。

けれど今振り返ると、自分ばかりが想っていたのかもしれないとも感じています。
海と山に囲まれた土地で、十人の大家族と暮らす日々。

朝から晩まで家事に追われ、孤独の中で心をすり減らしていきました。

27歳でうつ病を発症し、娘とともに東京へ戻ることになります。

翌年には父が他界し、離婚も決まりました。

そのとき初めて、「自分の人生を自分で選んでいい」と思えたのです。

胸を張って働ける仕事がしたい。
 人と同じではなく、自分らしく生きたい。
そんな想いを抱えていたとき、コーヒーショップの話をいただきました。

コーヒーが好きだったこと、そして子どもたちに背中を見せられる存在でありたいという想いから、挑戦することを決めました。

コーヒーとの出会い

Mr.Beansという自家焙煎珈琲店に関わる中で、次第に自分自身で豆を焼きたいと思うようになり、手編み焙煎を始めました。生豆からコーヒーが生まれていくその過程は、まるで命が芽吹くようで、とても愛おしく感じられました。


コーヒーには、人を惹きつける不思議な力があると実感しました。お客様との会話の中で、さまざまな知識を教えていただき、自家焙煎という世界に自然と惹かれていきました。


豆の違いがわかるようになり、その一つひとつに個性があることを知ったとき、どこか子どもが生まれるような感覚がありました。これまで自分の気持ちに蓋をして生きてきた中で、コーヒーを焙煎することで初めて自分が肯定されていると感じました。


誰かに喜んでもらえること、自分の手で笑顔を生み出せることが、これまでにない幸せでした。お客様との関係が築かれていくことも、大きな喜びでした。

あるとき、重い病を抱えたご主人を持つ奥様がコーヒーを探しに来られました。
その姿を見て、コーヒーはただ飲むものではなく、人の人生に寄り添う存在なのだと強く感じました。失われていた時間や感覚を取り戻すきっかけになり、再びコーヒーを楽しめる喜びを共有できたのではないかと思います。

病気を治すことはできなくても、心に小さな灯りをともすことはできる。
 コーヒーはその人の日常に入り込み、つらい毎日の中で、ほんの少しの幸せを届ける存在なのだと感じています。

コーヒーを作り続けるための挑戦

Mr.Beans

1998年~2002年

Cafe Sucre

2004年~

軽井沢焙煎所

2015年~

innocent coffee

2015年~

Made in JAPAN DECAF

2017年~2022年

軽井沢焙煎所ORGANIC

2023年~

Milk Brew

2024年~

挑戦はまだまだ続きます

楡井のコーヒーへの想い

シュクレにとって、コーヒーはただの飲み物ではありません。


人と人とをつなぎ、言葉がなくても心の奥に触れることができるもの。お客様が口にした瞬間、ふっと表情が和らぐ。その一瞬に立ち会うたびに、コーヒーには言葉を超えた力があると信じられる。

それは、元気を取り戻すきっかけだったり、誰かと心を通わせる時間だったり。
小さな出来事のようでいて、人生の輪郭を照らすような時間だと思っています。
私たちは、そうしたあたたかい瞬間を、もっと多くの人に届けたい。


コーヒーを淹れるという行為の奥には、「あなたを想っている」という気持ちがあります。どんなに忙しい日でも、誰かの心が少しでもやわらぐように。
孤独な時でも、「ひとりじゃない」と感じられるように。
コーヒーで繋がる人との時間が愛で溢れるように。

コーヒーを通して自分を肯定できるように。



一杯のコーヒーが、誰かの一日を少しだけ明るくする。
 そんな願いを込めて、私たちは一杯一杯のコーヒーを届けています。

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